歓びや悲しみを謳うためでもなければ

古びた世界を更新するためでもない

怒りや意見を表明するためでもなければ

一瞬の驚きを永遠に変化させるためでもないのだ

結果として、そうなっていることがあるとしても


ひとは誰もかれも病気に掛かる

身体と精神についての話ではない、それは名前だ、

その名前で呼ばれる、それ以外の沢山の名前でも呼ばれる、ただひとつのもの

それは病気に掛かる

それは ”わたし” とも呼ばれる


心臓を虫にたかられている気分 という病気や

空気の質量を十倍に感じてしまう病気もある

とてもじゃないけれどこの詩の中には書き切れないな

とにかくそれぐらい沢山の病気に、いつだって不意打ちされるのだ


処方箋を、薬を、どうか
心臓がナメクジに食い尽くされる前に、どうかどうか、先生、お願いします、どうか
ナメクジが何十匹もいるのです
もう心臓の赤い色なんてすっかり見えないくらいなのです、


偉い医者の先生を尋ねて、わたしは言葉を掻きむしる
引っくり返しては読み漁り蹴飛ばし散らばし読み飛ばし

くるしいくるしい
見つからない、見つからない、誰も、誰も誰もいない
いない、医者のいない、名づけてももらえない、病

だから
自分でどうにかひりだすしかないのだ
藪医者の処方箋を、熱さましを、痛み止めを、
そう
眠り薬までも


ナメクジは、五匹かそこらは死にました
まだ服用しつづけるしか無いのでしょう
もし同じ病気で苦しんでいるひとがいたら気の毒だから
この薬はここに置いておきます
副作用のほどは、ご検討の上にて

お役に立てたでしょうか
それならば幸いです


inserted by FC2 system