【物語に関する10の言葉

1.暖かな冬の縁側に
  彼は穏やかに置き去られた
  幼子の笑顔は夢から逃れて
  ただ 時を止めていられる

2.閉じ込めてはいけない
  彼の瞳に望む自由
  それは夢と幻に沈む
  閉じ込めてはいけない

3.彼を見て泣く人もいるが
  彼は泣かない
  誰もが彼には両親がいない一人きりそのものという
  けれど現に彼はここにいる

4.五線譜の走る空
  はらはらと脱ぎ落とされた命を
  拾い上げる子供たち
  落ちてきたのは彼

5.彼の瞳は蒼いのだという
  男は首を振って、いいや深紅さと答えた
  少年は呆れて、違うね緑だと答えた
  女は不思議そうに紫でしょうと言った
  子供たちは気に留めず彼と遊んだ
  老人はただ笑った 彼を閉じ込めてはならない

6.朝日が顔を出した瞬間、その時の
  敷き詰められたガラスの輝き
  夜の闇に呑まれてなお帰れない輝き
  皆既日食が訪れた、美しい闇だ
  彼はそれらを愛した
  朝日が顔を出した瞬間、白日に
  消されるのを待っている吐奢物と
  黒ずんだ怒りの瞳
  また何処かで娘が泣いている、屈辱を
  彼はそれらを愛した

7.時を止めよう、止めてあげよう
  彼は歌が上手だ
  もうかれこれ6000年は歌っている
  誰も彼も飽きが早い
  それでも彼は歌が上手なのだ
  それでも彼の歌は美しいのだ
  鳥の声に石を投げる人もいるが

8.ある人は殺され
  ある人は救われ
  ある人は存在に気づかず
  ある人は神と崇め
  さて、あなたは、困ったな、
  どうする?

9.彼は雪原の泉
  ノーウェア草原の風
  嵐が丘の隠れ家
  路地裏のスフィンクス
  お望みのままに

10.くたびれたあなたが電車に腰掛けたならば
  向かいの席を御覧なさい
  そこに彼が腰を降ろしている
  すっかりくたびれて居眠りをしている
  あなたにはすぐ分かるはずだ
  電車が行く前に分かるはずだ



詩創作論課題
Wallace Stevensによる
Thirteen Ways of Looking at a Blackbirdをもとに
ひとつのものについて
いくつものイメージを

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