盲目の鍛冶屋が、
強かであれ!強かであれ!と、
がらがら声で喚きながら、冷たい鉄の槌を振り下ろした。
何度も何度も何度も何度も。
ぎんがんぎんがん、響く響く、
鼓膜に針を突き刺すように。

嗚呼その矛先にあったのは、
真っ赤に輝く剣の源ではなく、
柔らかな腹を持つ一匹の蛾であったのに。
紅き燐粉の火花がぱっと散り、
ふっくりとしたその腹の、
無惨な擬音は、掻き消され。

強かであれ!
強かであれ!

最後の羽ばたきが、やわりと震え。
噴き上がった光の粒子が、埃に紛れて舞い落ちる。
哀しき蛾の悲鳴など、人間なんかには届きやしない。

強かであれ!
強かであれ!

そしてとうとう盲目の槌は、
臨終の蛾の胸を粉々に叩き潰したが、
嗚呼勇ましき、盲目の槌、
最後まで赤き剣を鍛えたとしか見えぬまま。

お前が彼を殺したというのに。




(そんなことさえ取るに足りない?)




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