(眠れないよ ねむれないよぉお)


喉から吐き出す細い針を
ふりまわし
はりめぐらせ、
泣いている子供の目を
手のひらでそっとふさいで
二の腕を 
小さな耳たぶにぺたりと寄せ
抱きしめて
彼は、
飛んだ焦点と
硬直した鼓膜で
静かに
本当に静かに
よのなかの
苦いものを処理し
のみくだし。

(大丈夫だよ泣かないよ
 目の前で血を噴き出してこときれる人の目を見ても
 知らないことばで絶叫している女の人見ても
 ああ服が引き裂かれて圧し掛かられて悲鳴悲鳴、
 のみこみます、ここで、
 まっしろな客席とスクリーン、
 お母さんに殺された子供の名前 知らない街を一瞬だけ、
 見えない 見えない きこえない
 町中の日本中の世界中の家で教室で道で建物の中 身体のとなり
 苦い言葉やら 血やら 暴力やら、も
 嘔吐される悪口 呻き 罵り 鳴き声 恨み辛み
 舌打ち、
 誰も聴いてないよ 大丈夫ちゃんと忘れる 覚えないよ誰も。)

すてきなものが見えた時だけ
手をはなしてあげる


死にたくない



(すみませんが手を伸ばせないので あなたの顔も 声も わかりません。)

(私は何を言ってましたっけ)



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