鈴懸の木
太陽に焦げた大きな葉が
ひとつ、またひとつ、風に舞い
どさりぐしゃりと落ちてくる

あまりにも暖かな日差しのもとで 少年は眠っていた
石の地面に蹲り 鈴懸の葉に埋もれ
やさしい夢ばかり見ているのか 横顔は微笑んでいた

太陽は少し傾いて
石の地面がぬくもりを無くしはじめても
少年は目を覚まさない
木枯らしの子供がやってきて
踏み砕かれた粉々の落ち葉をみんな吹き飛ばしてしまった
木枯らしのくしゃみひとつで
ちりちりと枝に震えていた葉がまたひとつ、
ゆっくりと
風車のように宙を舞い
どしゃりと、
音がした

……ひとりは ひとりを
夕暮れに
何故待つことを 覚えたか

少年は目を覚ました 暗闇の中
何も分からずに震えながら
自分の顔よりも大きい鈴懸の葉を
がしゃかしゃぐしゃがしゃ蹴散らして走った
呼ぶ声は音にもなれず掻き消されて
ひとりはなれ……
きっと少年はまた眠るだろう やさしい夢を見て
眠りの中に
遺された
ひとつの憧憬に溶けいるため






大学の詩創作論課題として
立原道造の詩を本文中に一部引用しています

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