鴉の唄


白い翼が平和の象徴、と人々が謡い称えるのならば
この黒い翼が示す先には何が待っているのだろう

疎まれ忌まれ追いやられ
この黒い翼はどこへ向かう
美しい歌声さえも与えられず
紡ぐのは嘆きの声ばかり


……嗚呼 あの蒼美しき空に浮かぶ我らの黒い翼
なんと滑稽に見えることか?


人の描く天使の背には、美しい純白の羽が舞う
人の描く悪魔の背には、醜い漆黒の翼が羽ばたく

人よ人よ では、お前達の背には
何色の翼が生えている?


漆黒の翼が空を翔る 嘆きの唄唄いながら
蒼穹に浮かび喜ばれるのは白い雲と翼
嗚呼 いるものか、我らを歓迎する者など
嗚呼 もう悲しむものか、我らに向けられた冷たい言葉
そう…我らも望むまい、かつて夢見た純白の翼

我らは望む、只一つ、蒼穹の果て蒼い蒼い天球を



…嗚呼…我らは目指して見せよう!
この醜い漆黒の翼、しかし羽ばたく事は出来るのだ!
例え嘆きの唄であろうと、我々には歌声があるのだ!
我らを嫌い地を歩く人々よ
お前達の背には 何色の羽が佇んでいる!?


空を見ること忘れた 人々を嘲笑うように
黒い翼の鳥 高く高く涙と絶叫、風に散り堕ち かき消える
只々 蒼だけを視界に映して
蒼穹を何処までも何処までも昇っていく……

嗤えば良い 憎めば良い
空に浮かぶ漆黒の翼
だが我らは決して決して この空を忘れはしないだろう

お前達の忌むこの翼は 蒼穹を叩いて風に乗り
何処までも高く舞い上がるだろう


……地をただ見つめて行く人よ お前達の背には何色の翼がある?
……同じ星に息づいたはずの兄弟よ お前達の瞳には何色の空が映る?
近頃では蒼穹を灰色の柱が突き刺し遮り
我らの黒い翼も蒼い空もお前達の望む白い翼まで
灰色の柱の向こう側

人よ お前達の瞳に蒼穹は映っているのか?
この蒼い蒼い白と黒は映っているのか?

     
泣き声         絶叫
鴉の≪歌声≫  嘆きの≪唄≫
耳を傾けた少年 窓辺から蒼穹を見ながら
只 一言 答えました


「僕も出来れば …忘れたくないんだけどね」


灰色の柱の窓の下  北風駆ける灰色の道

空を忘れた人間は 只淡々と歩くだけ………




窓辺の少年、答えを返して顔を上げ、答えを受け取った漆黒の翼は、
黒い声で一声泣いて、その夜色の翼で羽ばたき
高い高ぁい蒼穹の向こうへ
羨ましいほどに力強く 強く羽ばたいてゆきました


「……我らは…。
 星の灰に埋もれるよりは 夜空の涙で黒く染まろう
 蒼穹を奪われるくらいなら  そう我らは―――― ………」







『エイエンニ、トモニアレルヨウ ソウワレラハ  トキヲ トメヨウ』








永遠に羽ばたける翼など

蒼穹の果てに辿り着く翼など


彼は持っていませんでした。










夜空を切り裂くのは白い流れ星

青空を切り裂くのは黒い流れ星


星降り それ即ち 流れ星の異端

空を真っ逆さまに堕ちてゆく それ即ち不吉の象徴

空を斜めに駆け横切る流れ星は願いを叶えるのでしょう
空を垂直に切り裂く流れ星は そう 貴方の願いを叶えてしまうのでしょう




蒼い蒼い蒼穹を 垂直に

      

黒い≪流れ星≫は切り裂いて


そして最後にはとうとう夢にまで見た

蒼穹と永遠にひとつになりました







聞こえますか、彼の悲しい嘆きの唄が

嗚呼この蒼穹の色

貴方は貴方は貴方だけは 覚えていますか

あの蒼に浮かぶ黒と白を



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