対岸が見えるの。
ここは橋の真ん中。
ゆらゆらと揺れる苔縄の吊り橋。
夢を見ていたようだった。
なんてリアルな、青い夢。
ふぅ、と。
吊り橋が揺れて、私は目を覚ましてしまった。
それとも此処が夢の中?

対岸が見えるの。
広い広い世界。
あれは何処かしら。
みんなはすたすた歩いていく。
私は立ち止まってしまった。
ぐらりぐらりゆらりゆらり。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
私は対岸を見た。
夢を見ていたから、眠りながら、歩いていたから。
今までちっとも気づかなかった、のに。

苔むした縄にすがりつく。
何故、何故、みんな。
あんな場所へ、行けるの。
泣きそうな私はぐちゃぐちゃどろどろ。
歪む世界。揺れる世界。
何が夢か。あの対岸は夢か。
私は動けない。進みたくない。青ざめて、後退り、後退り、

後ろには橋が無かったんだ。



「貴方は何をしているの?」

私はあすこに行きたくないの。


「何を今更。」

気づいてしまった。


橋はどんどん崩れていく。
それでも私は進めない。
怖い、怖い、恐ろしい、
あの広い対岸が恐ろしい。
過去の記憶を嘘っぱちの美麗で飾り、私は叫んでいる。

どうか帰して。



崩れていく橋。
進んでいく人。
立ち尽くす私。
私は過去の声にすがりつく。
何て臆病な、臆病、な、





そして橋は、落ちていった。







「そうよ、ピーターパン」



信じれば、空だって飛べるわ。


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