肌寒い風の吹く日
あの子は縁側に座っていた
言葉を声を忘れてしまったかのように
微かに口を開けて
青の薄れた空を見上げて

肌寒い風の吹く日
蝉の声が響いていた
一人きり
夢から逃れ遅れて
寝過ごしてしまった彼の


おぉーしぃいー おぉーしっ おー… ……


萎びた羽を伸ばし、低く唸っては飛び回り
涼やかな影から逃れようと
呼んでいる 彼の
声を、
あの子はただ
萎びた手をゆっくりと伸ばして
赤い膨らみを掻いていた

(でももう夏も終わりですから)


ほおー しっ とぅくつくとぅくつく おぉおおお しいいいい ……


感情の奔流を
たった数音の単調なメロディアスな明日に込めて
彼の歌、彼の歌
それでもあの子はまだ
ぼんやり空を見上げている

(生きるためにはそう耳を塞いで)

やがては沈黙の元
小さく丸めた背中に
磨り減りきった羽が 歌が
見つかっただろうか


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