女の人は、死を孕む。
毎月、毎月、眉をしかめ、
あるいは無表情に、もしくは笑いながら、
とろとろと死を産み落とす。

なんちゃって。

文学ガクガクにひっぱりだこの
ただの万能美的表現には興味ありません。
ちょこっと書かれたかと思えばそれは、
汚れや汚れ恐ろしや、忌むべきや、死や死や汚れや恐ろしや、
まるで日雇いでお化け屋敷に出掛ける幽霊みたいに、
ぎゃぁああ、でた、でた、でたでたぁ、やっぱり出たあ!
ありがちガチガチ王道です、
繊細な女子中学生が、もしくは女子高校生が、
自分の身体から垂れ落ちる赤い血に、
病的なまでに怯え、暴れて、汚い汚い臭い臭い、
どこに!そんな!女子学生が!いるというのか!
千歩くらい譲りまして、まして、初回、初めて、特別な時、精神情緒不安定、そんな女の子だったと致しましょう、
もちろん、いない訳はないでしょうが、
毎月毎月、(まあ、不定期気まぐれな奴らもいますが、大抵あいつらは礼儀正しいのです)毎月毎月、
生理用品を買い集め、可愛らしいポーチに潜ませ、
生臭くない隠語を幾つも発明し、食後にはポイと薬を飲み下し、
それでもやってくる生理痛さんに対し、
心の中で眉をしかめて呻きつつ、
傍目には分からぬよう、分からぬよう、
いつもどおりに笑ってみせる、そういう普通の女子学生はいったい何処に?
気まぐれ不定期な襲来に悩まされたり、
湯船から出たとたん、タイルの上にてんてんと残る、
赤い自分を溜息と一緒に流し去る、
白い服を遠慮し、ナプキンの種類とずれを吟味し、
無垢な子供に、おかあさん、どうしたの、怪我したの、なんて、
聴かれてしまう女の人の、情けない気持ちはいったい何処に?

分かりました、貴方のお好きな文学的表現で参りましょう。
詩的表現で参りましょう。

女は、身の内に死を孕む。
暖かく血の通う柔らかな腹、その内側に、
赤子を孕むのと同じように、
白い腹、黒い腹、その内側に、血の通う身体の一部。
育ち育てて毎月死んでゆく身体の一部、
からだの内側が溶けてゆくのだ。

赤い赤い、黒ずんだ赤いことば
人の体温と同じあたたかさ、
人の身体の匂い、仄かに、
とろとろと垂れる赤いものは、確かに死。
疎まれ、汚れ、払われて。
それでももう一度やってきた。

感じるのだ。
頭痛、腹痛、腰痛、全人類共通の痛みと同じように。
身体の内側が溶け、剥がれ落ち、足の間からゆっくりと暖かく滑り落ちていく時の、
死が身体から剥がれていく時の痛み。
時として、直立すら、椅子に掛けること、休息すら許さず、
小さな個室、白い便器の上、身体を折り曲げて腹部を押さえ、必死に宥め、
目の縁に涙を浮かべ、呻き声を殺し、真っ青になって、視界すら霞み、
冷たく汚く硬い床の上、倒れて、身体を丸めるしかない痛み。
身体の内側が蠢く、うねる、
幾日にも渡る死の出産。
痛いよぅ、辛いよぅ、嘆くことは許され、けれど、詳細な伝達は、
排泄や性交のそれと同じくらい、目を眇められ、
沈黙のままに呻く。
書いて悪いか。
R-18小説が世に溢れかえって、性交なんて一般小説じゃ食事睡眠シーンと同様くらいに普通のことなんだから、
えっ? 一般小説には、セックスシーンはあっても、トイレで腹痛に呻く主人公なんて、ギャグでしか出てこないって?
……まあ、それは、まあ、うん。
快感なんて0だもんね。ただ不快なだけだもんね。排泄のがスッキリする分まだ良いよね。
あーあ、あーあ。
痒いし蒸れるし、面倒くさいだけなんて。
面倒くさいなあ。


ストロベリー、ブルーベリー、クランベリーの甘い甘いジャムから、
匂いを抜き取って、代わりに女の人の匂いをつけて、
その辺で売ってるナプキンを食パン代わりに、
とろりと落としてちょちょいと刷り込んで、
ほらできた。
美しく透き通る赤い上澄み、ちょこっと散らばる黒イチゴの欠片、
バターナイフを持ち上げた時の粘性まで、完璧です。
一週間ほど、お付き合い願います。
大丈夫、特に手を煩わすのは、最初の三日間くらいですから、ね?



死が遠くなったなんて言われる現代ですが。
なんてことはない。
私はまた、死を産むのだ。
産めるのだ。

白くてちっぽけな、便器の中の小さなプール、
真っ赤な薔薇のようなトイレットペーパーの森の奥で、
一筋の赤い竜が舞う。
レバーを上げれば消える、たった一瞬の、
秘密と共に。


(もちろん、いざそれがやってきたら、
溜息とうんざりな呻き声しか、出てきませんけど、ね)

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