いつだって鏡の裏には少女が立っている
無垢な胸には美しい切花
そう、たった昨日、挿されたばかりの切花だ
そして鏡の表には
もちろん、いつだって女が立っている

鏡に向かう女ほど勇ましいものはない
偉大なるクロノス、時の神々と僕たち
宇宙の理にその身一つで立ち向かうのだ

皮膚の窓という窓に水の釘を打ち
鮮やかな雪は何重にも世界を守る
感情の証に時が残した細やかな痕跡さえ
女の目からは逃がれられない

だけど鏡の裏側には
いつだって少女が立っている
胸に切花を授かったばかりの

鏡の表側に置き去られた女だって
胸に切花を挿しているのだ
今はたとえ萎れかけていようが
今はたとえ腐りかけていようが
それは美しい切花に違いない
一秒でも長く
死を遠ざけずにはいられないほど

だから誰か早く
とっととあんな鏡を打ち壊して
もう充分だと謳ってやれ
もう充分美しいのだと
世界中に謳ってくれ


inserted by FC2 system