誰か就活の詩を書いてよ
受験の詩でも良いな
ブラック企業の社畜さん(今はまだリアリティのない単語、幸いにして!)の詩でも構わないよ
性だのセックスだの愛だの恋だの生だの死だのぐちゃぐちゃだのどろどろだの
寂しいだの会いたいだの世界だの家族だの哀しいだの孤独だの
そーいうのは、なんていうか、もう充分、飽きたし、いっぱいあるんだから
誰か就活生と受験生と残業から帰れない社会人のために詩を書いてあげてよ
生と死の前提として存在する自己の生活を
加工貿易しなきゃならない人のために詩を書いてよ
詩を読むための心さえ残んなかった人が
読める詩を書いてよ





普通の人の普通の悲しみ
毎日200円のうどんをお昼に食べ続けることとか
セールで買ったユニクロの上着が毛玉だらけになっていくこととか
出せなかった瓶と缶のゴミがキッチンに積み上がって人を呼べないこととか
誰も歌ってくれない
お呼びじゃないらしい
こんなにかなしいのに





(普通ふつうと口遊んだあとで
口を滑らせたときの気持ちで
慌てて口に手をあてる
フィクションの欲望にご用心)





(どうやらも何もなく分かりきっているけれど)
私は詩人の顔した人間が嫌いだ
(部屋の隅っこで拗ねて膝を抱えながら曰く)





恥か孤独のどちらかなら
大抵の人間は耐えられる
両方いっぺんは難しいね
紛れ込むか、閉じこもるか
だいたいはその二択だ





実在のために流した涙と
虚構のために流した涙を
秤にかけてみる
無言





雨粒は
空から地上へ
至るまで
何を思うことだろう

(とりあえず私は、
要される距離と秒数を調べようとは思わない)





美しく磨き上げられ
隅々まで技巧を凝らし
どんな角度からのダンスにも耐えうる
まるで卒業答辞のような
綿密に用意された言葉の
いかに脆いことか!
脱臭された音楽なんて全部滅んじゃえばいいんだ!

まだ幼く何も分からず
そんな白い心に
素朴な感動を以って刻まれた
軽やかな鼻歌や流行りの歌
遥かな年を経ていついつまでも
唇から蘇る調べが
きっと一番美しいのだ





少しずつ透明になってねえ
生きたいとも死にたいとも
生きたくないとも死にたくないとも
思えなくなるくらい薄くなってねぇ
何もかも
どうでもよくなっちゃってね
何もかもから
脅かされずに
ぼんやりとした薄明の
白昼夢みたいな幸せに
口と鼻を塞がれて

てた





加害者が加害者である為には
自らの正義を語っちゃあいけないのさ
正義になった加害者はもう加害者とは呼ばないもんね
敬虔なる加害者は貝になるしかないんだよ
被害者にさえ忘れ去られて
誰もが存在に気付かなくなるまで
綺麗に口を蝋づけされたら
彼らは死人と罪人になる



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