林檎の小島 〜イヴ・アイランド〜



I love you なんて
簡単なものじゃあないのよ
もっと暗く沈んだ 光る果実なの
浮かび上がってきても
きっと救えないわ

黒い夜空を映した泉に
貴方は浮いているの
ふわふわ 波紋が描くわ
貴方の言葉を

優しく揺れていた貴方を
見ているだけで幸せだった
たわわに実る 巨木の根にもたれて
貴方は一番 甘い香りの気がした

甘い甘い香りが そっと
私を抱きしめて撫でてくれた
優しい香りに私は夢を見たわ
幸せなガラスの夢


――だけどこの手は臆病すぎて
貴方に触れることも出来ずに
優しすぎた貴方を
ハサミでぱちんと 切り落としたのよ

ぱしゃん
水音が 響いた


……南の果ては凍えるように
優しさの果てにも何も無いの


 

黒い空 緑の天井
白い花 赤い果実
デンドロビウムの唇が
蜜を孕んで散り消える

―― Please, pardon me……
Please, don’t pardon me……――

貴方の夢に抱かれて
私はそっと眠っているわ
現実の貴方はぷかぷか
そこに浮いているけれど 私は目を瞑るの
甘い香りの夢が揺れる

私が会いたいのは誰なのかしら?
胸が寒くて凍えてしまいそうなのに
私は夢の中の貴方に縋りつくの
儚い希望さえ見捨てて 指先が空を切る

ねえ おねがい
そんな場所で微笑んでないで
沈むか 流れ往くか してください
こんな私の側にいたら
貴方まで痛んでしまう
私が狂ってしまう前に……

サヨナラ サヨナラ
どうか私を忘れて
貴方は幸せな若木になってね
我儘な甘い祈りを捧げているから

I ――― you……



※デンドロビウム
野生では木に着生する、洋ランの一種。
花言葉は「我儘な美人」もしくは「我儘な愛」。





2008年 文藝部誌「游」 バレンタインスペシャル号掲載
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