月夜の下でハーモニカ
吹き鳴らしては道化が踊る
軽やかな足取りを鈴が彩り
しゃらりと歌声、くるりと回り

「やあこんばんは、利口な人形」


彼は今日も、そう笑うのだ

背負う満面の星空を
そのまま顔に散りばめたような
透明な笑顔で微笑みながら


「君はまだ、隠しているんだね」


動かない、話さない
無機質な人形に一礼を
物憂げな目を細めては


「後ろ手に隠した旅の終わり」

「いくら君がそれを、梅雨の風のような笑顔の中に隠しても」

「いずれはみな、抱きとめる」

「あの美しい紫の星を」


秩序を保つ為に構成された社会という呼び名の概念は
一定の鼓動を保つが為に
世界を、終わりを、始まりを
そろりそろり、恐ろしげにぼやかして
冬の曇り硝子の彼方に
曖昧な恐怖を織り上げて、積み上げて
大丈夫、まだ来はしないと、優しげな目で、笑うのだ
だから、恐れずとも、よいのだと。


「幾ら擬似の不死を織り上げようと」

「僕らの旅はいずれは終わる」

「それは七十余年の時の先か、それとも明日か」

「分かりやしないのに、君はただ」

「利口な笑顔で、まだ先と、囁き続けるのだろうね」


そして、忘れさせてしまうのだ。

何故、生まれてきたのかを。
何故、生きていきたいのかを。
何故、自分が生きているのかを。

何故、
紫の星を恐れるのかを。


「だから僕は、君の代わりに問い続けるんだ」



ハーモニカを鳴らした風が、ゆぅらりと通り過ぎ。
無言で佇む人形を一度抱きしめ、
へらりと微笑んだ道化師は、爪先で静かに大地を蹴った。

しゃらり、と。
澄んだ鈴の音に道化師は問う。






君は、今
たとえ紫の星が訪れても、後悔しないほどに。




「君は今、本当に、生きているのか。」






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