Crescent Sandglass

 

Prelude 〜Crescent Princess〜

……まるで三日月のような
暗い海に浮かぶ船は 夜空にたゆたい
静かに佇む乙女は 三日月の姫君……

全てを失いたくないと 必死に手を伸ばして
砂時計を止めていた指も いつかは離れていくのに

「I loved everyone……」

涙の意味さえも 尋ねないで
涙が訪れることさえ 識らないままで

「I loved everything……」

微笑んでいた三日月に 永遠など許されるはずがない

砂時計は刻んでいく
砂は静かに堕ちていく
生きうる限り止まらない 惑星の鼓動は
拒絶する彼女さえ ワルツに誘うの

流れた星は 希望の星? それとも絶望の星?
叶えられるまでは 知り得るはずもなく
全てを後悔するのは 全てが叶ってからだった

硝子のような三日月は 美し過ぎる天の涙に 砕け散る

……解っていたのよ 時が止まらないことくらい
それさえ拒絶しようとして 砂時計を砕いたの
砂が風に消えてから 気付いたって遅かった

全てに私が微笑んでいられたのは
Dreamingを 視界から締め出し
唯 輝いている部分を 見つめていただけだったから

楽園を描いていたことに 気付いてからじゃ遅かった……


 

Nocturne 〜Stardust Sandglass〜

天上から地上へ 地上から天上へ
奇跡はいつしか日常となって 私たちを取り囲む
気付くことが出来るのは その全てが消えてから
寒いと嘆いても もう迎えは来ないの

天上から地上へ 静かに降り積もる砂時計を
その白い指で 静かに 覆してしまえ

降り注いでいた哀しみは 奈落へ駆け上る喜びに変わるわ

全ての物事なんてものは まるで砂時計のように
手の平ひとつで 変わってしまうものなのに
そのことにさえ 耳を塞いで 永遠を願った

降り注いでいた喜びは 天へ堕ちていく哀しみに変わるの

幾度 楽園の再来を願って 砂時計を廻しても
その度に その度に
降り注いでいた何かは別れを告げて
奈落の底へ 吸い込まれていくのに

「What do you know meaning “happiness”?」

……今がどんなに幸せだったとしても
いつか砂時計が廻りさえすれば 星屑のように 奈落へ奪われる?
…嫌よ どうか 奪わないで
私の抱きしめている光を 無理矢理奪い取って
奈落の底に 突き落としたりなんてしないで

幾度砂時計が廻ろうとも
これだけは貴方に渡しはしない
抱きしめて 抱きしめて 奈落の底までも共に――


……指の間から 零れるような
そんな頼りないものを 必死の思いで抱きしめて

三日月の姫君は 何処へ堕ちていく………?

 


Interlude 〜Dreaming〜

どんなに明るく輝いていた満月でさえ
ワルツを踊る間に 新月へと変わっていく

どんなに暗闇に沈んでいた新月でさえ
ワルツを踊る間に 満月へと変わっていく

どんなに明るく輝いている光でさえ―――

光が闇に変わる狭間
もしくは
闇が光に変わる狭間

それが光なら それは絶望
それが闇なら それは希望

「Dreaming」
……月の影 忘れられた場所 新月の二つ名
満月の時はその裏に隠れ 半月ならばその身を分けて
三日月ならば 船を形作る為に 闇に溶けている見えない月

例え見えなくても 月はいつでも同じ姿であることを
光は簡単に覆い隠す
締め出された深淵は 真円を舟の姿に刻み込む


――三日月の船が幻ならば 姫君は何処にいるの?

“全ての物事なんてものは まるで砂時計のように―――”


光の裏には影があって 影の裏には光があって
それが本当の姿でも 僕達にはどちらかしか見えない
……満月の裏に眠る新月を 何人の人が覚えているのだろう
今まで光しか見ていなかったくせに
「月が消えてしまった」なんて 泣いている子は 何処の誰?

暗闇に飲み込まれてしまったからと言って
満月を忘れてしまったのは―――
 
 


Ballad 〜Memorial Defender〜

……時は全て奪っていった
あの日の笑顔も 約束も 私の手からは零れ落ちて
永遠だと信じたあの日々でさえ 私が自ら突き離したの?
…それとも
その砂は自ら私の手を出て行ったの?

それさえも
もう分からないのに

私が誓った小指の祈り …あの誓いさえ砕け散る?


三日月の船に揺られながら 砂時計を廻しながら
落ちていくのは……


指の隙間から零れ落ちる砂粒に口付けを
瞼から零れ落ちる雫で約束を
心に刻んだ思いさえ 忘れていれば落ちていくから

水を与えずにいて枯れない花なんて 何処にも無いのに

零れ落ちる砂粒を追いかけて
奈落に落ちていく姫君は
自分の心さえも失って 暗闇の中で新月に変わる

やがて その砂を追いかけていた理由さえも落として
絶望に呑まれて希望さえ落として

落ちた砂はもう二度と帰らない?

その小さな手の平に 永遠なんて留められるはずがない
風に飛ばした砂粒はそれでも いつかまた砂時計のように

手の平に帰ってくるのでしょうか


暗闇に浮かぶ船は それでも今もまだ そこにある






Epilogue 〜Crescent Sandglass〜

…She is standing there
Forever she is standing there

She is crying
But she is smiling

As if she were full moon, or dreaming

She is straying yet
She is waiting light and sands yet


永遠など無いと知りながら 砂時計の意味を知りながら

それでも光を信じたくて 零れた星の砂が再び降りてくるのを願いながら


Crescent is boat and cradle and moon  Sandglass is eternal and wish

Moon is light and dark


三日月の砂時計は今日も時を刻んでいます
過ぎ去った砂の再来を願いながら 想い出を抱きしめながら
三日月の姫君は 今日も船の上で佇んでいます






2007年 文藝部誌「游」 晩秋の号掲載



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