Clowd Clown


…聞こえる…聴こえる……蒼穹の彼方、雲の峰を越えた世界の果てから……
遠く響く彼らの歌声 世界の理 紡がれる物語
届いていますか あの歌声が
貴方はあの歌を憶えていますか――?

「我らの巡り逢いもまた奇跡と呼ばれるモノ…御機嫌よう、旅往く友よ」
「貴方の運命は旅往く事…私の運命はここで詠い続ける事」
「交錯した我らの時間に空の祝福の在らん事を……」

リュートを手に佇むのは 蒼を背景に微笑む吟遊詩人
彼は謳いそして紡ぐ……この蒼穹の物語を……
…廻る蒼穹、巡る運命
定められた涙が帰ってくる
其処は――故郷を喪いつつある世界
其処は――蒼と白と生きる人々の住む世界
其処は――私たちと決して逢い入れる事の無い世界…
                               
かつての翠を蒼に奪われた世界 母なる大地は死に去り        
父なる天空の腕の中 人々は舞い駈け生きていた                犠牲となる少女と
壮麗な街々は悲しみを覆い隠し 喜びを謳い讃えている
しかしそれは理を喪った世界 ……私達は何処にいる?           犠牲に恋した少年

かつての川は空となり 生きる為に人は空を舞う        
母なる大地を殺した魔法が 彼らを支える翼と成った           運命に呪われた少年と
空を手にした人々は 風の歌と共に白の中を舞い翔ける   
…神の涙も知らぬまま 無垢で無邪気な幼子のように…         運命を負わされた少女

迫り来る終末の歌 再びの崩壊が彼らへ歩み寄る
犠牲と悲しみの先に続くのは …極夜、それとも白夜
嗚呼…神の歯車が廻る時が 再び蒼穹に廻って来る……
…廻る運命、巡る蒼穹
忘れられた約束が還ってくる
吟遊詩人は唄い伝えるだろう
かつてこの世界が紡いだ…
…空の様に深く遠く澄んだ悲しみの 物語を…
……空の様に遠く深く灯る希望の 物語を………

「嗚呼…貴方の耳に 彼らの歌は聞こえていますか――?




<蒼白の宝石箱―――閉じ込めたのは幸せな思い出>
               アウリス
…ここにおいで、空の王女様
遠い遠い太古の大昔の物語を聞かせてあげる……

気の遠くなるような時の彼方 空は、たったの半分しか無かったの
でもね、今は、ほら… 世界の全ては蒼と白に包まれた
淡青から…青を経て…蒼へ まるで魔法を描いた私たちの空が此処に在るわ
天空の腕の中浮かぶ街々が 今は私たちの大切な故郷

                   ラ・ヴァヴィロン      奇跡の結晶                      . 
嗚呼…僕たちの街…空中庭園に、クラウフィードを讃えたる歌を!

雲の水平線から生まれる朝の光 雲の峰と海は黄金に塗り替えられて
「さあ行こう、僕らの蒼穹の歌が聞こえる」
「さあ行きましょう、私たちの美しい蒼の中へ」                …我らの宝の元へと!

「……そしていつか大人になったら」
「まだ誰も知らない、あの聳え立つ雲の峰の向こうへ旅に出ようね…!」

吹き抜ける風に胸が高鳴る 流れていく白と蒼は何処へ歩いて往くのだろう
瞼の向こうを覗いたなら 風の精霊の紡ぐ旋律が私の鼓膜を震わせる
舞い上がる舞い躍る純白の あの精霊の名はシルフィード
私たちの大切なお友達、そして大切な宝物
振り仰げば、あの雲の天辺に翔けていく 幻が、見えるわ

かつては水路と呼ばれていた道も 今では蒼い底を抱く空の路
橋の欄干を駆け上がって、深く息を吸い込んでから 思いっ切り身を投げる
そうすれば、其処はもう 僕らの天空の腕の中さ
大丈夫、何も怖くないよ
胸元に輝く蒼神様の御加護≠ェ僕らを受け止めてくれるもの!


真っ蒼な世界に抱きしめられて くるりと身を捻ってペガサス≠ノ飛び乗る
       
機体            キー
足元の<魔方陣>に、始まりの<呪文>を叩き込んで
   
反重力装置     操縦桿
<クラウフィード>の<杖>を握り締めるんだ
さぁ行こう、僕らの空の中へ……!

微笑んだ少年が 雲の階段を翔け上がる 手を取った少女が 空の中へ舞い上がる
風の歌が聞こえる 神様の歌声が聞こえるよ
嗚呼…僕らの歌も風に託そう!
………                     
私たちは不幸を知らない幸せな幼子
空に抱かれて、空と共に それが私たちの人生





<蒼神に捧ぐ祈り―――込められたのは願いでは無く詰問>

天空を高く貫いた 伝説に語られる 光を放つ雲の峰
積み上げられた虹水晶の 壁の狭間から生えた木々には空色の若葉が
陽光は優しく微笑んで 木漏れ日は清らかな唄を紡ぐ…


……我らの神…我らを蒼穹に迎え入れられし
蒼と白の護り神よ………

大地を失いし我ら人間 我らの道は何処に還るか
既に天空に在る我らの運命 楽園と奈落の定義は何処に在るか
死と生の狭間 巡りし廻るは世界の理
未だ失われずに在る筈の其の光よ
既に一族の記憶から その行方見失いし我らの名 は


……雲を蹴った舞巫女の足首の鈴が鳴り響き
神を呼ぶ蒼を呼ぶ 蒼穹の羽衣が翻る
嗚呼、其れは神楽
高い笛の音は風を呼び 沸き上がる雲は空へと駆け昇る


戻る地を失いし我らの魂 一体何処へ往く運命か
解き放たれし魂の息吹は 一体何処へ還る運命か
答え無き我らの問いかけよ 其の果てに待つモノ即ち 宿命

…我 今此処に 神に奉る
神よ、神の息吹よ 惑う我らを照らし給え

永きに渡る我らの足枷
この世の理 廻り巡る魂も答えは知り得ぬ
…伏して願わくば 取り払わん 消し去らん 我らの憂いよ


謳えや 詠えや 峰の舞巫女
我らの本質 魂よりいずる この問いを 蒼き心に影を落とす問い掛けを
我らの魂から解き放たん

嗚呼 ……我らの神よ
この問いに 答えを 応えを





<蒼い涙の哀嘆歌―――因果応報≠思い知れ>
掻き曇る蒼空 膨れ上がる黒い狂雲               「兄上様…空が、怒ってるよ…?」
…嗚呼 其れは                    「え…?」「本当だ…王子様、王女様、姉さん、」
…残酷な奇跡………                                  「早く、帰―――」

「―――――――ッ!!」

空を引き裂いた、高い高い王女の悲鳴           「落雷が機体に直撃…」「…致命傷…」
黒を引き裂いた、目も眩む閃光と轟音            「理解出来ぬ…」「未だ意識不明……」
叩き付ける豪雨 神の 怒り                  「ならば何故…」「そんな筈が無い…」

「……何故無傷で生きておられる…?」

其れは ジュピターに選ばれし宿命…

止まらない嵐と豪雨 僕らの街が壊れていく 僕らの蒼が消えていく
崩壊を紡ぎ始めた世界に、余りにも小さな彼らは 恐怖に掴まれ立ち竦む

「何故ですか…蒼神様…!何故僕の妹を僕らの街を……っ!!」
「神様…蒼神様……何故お怒りになられるのです…私たちが…何を……」
                                  神の涙
世界の均衡が揺らぐ 叩き付けられる残酷な運命はまるで豪雨
誰であろうと容赦無く降り掛かり 決して避ける事は叶わず逃げる事は赦されず
嗚呼 永きに渡った全ての民の問いかけへの答えが
嗚呼 今 突き付けられる
アア アア コンナノ キイテイナイ!!
「嘘…嘘よ……どうして…どうして……ッ!」

其れは新世界に架せられていた理 大地を奪われた天空の声
宿命に呑まれた彼らの魂に 高みから 悲しい嘆きの歌が響く
無知は幸福 真実は残酷 知らずにいれば良かったと彼は嘆いた……

……彼らに 輪廻は 赦されない

幸福には犠牲と代償 無償の楽園など在り得ない
浮かぶ街を支えていたのは 神の奇跡などでは無く 数多の死者の魂の光
いずれ <魂に刻まれた想い出> さえも奪われ 誰にも知られぬまま掻き消える 
かつての輪廻も転生も 天国も無く地獄も無く再会も無い 其れは悲しい使い捨ての魂
固く信じていたモノが崩れ去る 只其処に在るは 僕らの全ては

虚無=@
「嗚呼……再逢は何処に在るの…?」




<蒼色の人柱―――神の涙は本来止められないのだから>

…告げられてしまった…崩壊する世界を止める術
それがどんなに不条理な物であったとて、願ってしまうのが我ら人間

『蒼い舞巫女は非情な神の言ノ葉を告げる』

犠牲となった幼き王女よ…犠牲を刻まれた少年が泣き叫ぶ
運命を告げられた王子は…静かに寝台から立ち上がり
一人涙に気付いた少女が…弟の手を取りその後を追い駆ける


「全ての民が其れを望むのなら、全ての民の涙を止めるのは王族の役目だ…」
「例え私たち以外の全ての民が其れを望んでいたとしても」
「それなら僕は街なんかよりこっちを選ぶ」
「二度と帰れない」「構わない」「私だけで」「僕らも行くんだ」「帰ってくれ」「拒否します」

「何故こんな…稚拙な二流の物語の様な運命に…。
私たちは巻き込まれているのか……」


『神は告げた…暗黙のままに 滅びよ』
『しかしそれを回避する方法は――』

王家と街とに広く伝わる手毬歌
耳元の風の声は悲しみを帯び彼らを急き立てる
嵐の闇に消えてゆく四人の魂 彼らは一体何処へ往く?


…泣くのはだぁれ 涙をお拭き…
白い白い雲の峰 その向こうまで遊びに行こか
ほらほら神様呼んでるよ こっちにおいでと呼んでるよ
秘密の魔法を教えてあげる どんな涙も止まるから
虹色水晶積み上げて 舞巫女様よりもっと上 峰の向こうへ行きましょう
神様そこで待ってるよ お願い聞いて貰えるよ どんな涙も消えるのさ

虹色水晶積み上げて 其れに抱かれて夢見るの
うつらうつらと微睡(まどろ)みながら 魔法のお歌を唄いましょ
みんなの涙が止まるまで うつらうつらと唄いなさい
魔法のお歌は遠く届いて おうちに居たって聞こえるの
ねえねは先に帰るけど 涙が止まったら帰っておいで
ずうっとずうっと待ってるよ ……千年と一夜が過ぎるまで




<蒼が紡ぐ―――魔法の…………>


水晶の柱の狭間で 永遠に唄い眠る 微睡む夢の中で、蒼と白は巡る……
近づく刻と共に 再び動き出す物語……

『いつかまた巡り逢いましょう…必ず……何があろうとも…』

千年と一夜の人柱 その意味も知り得ぬ幼い王女
全てを知った上で飛び立った 王女の護り手 三羽の鳥は
神の涙を止める為 雲の峰の彼方へ消えた……

その後の彼らの行方は 誰も
……識らない

嵐(涙)はやがて鎮まり 三度目の箱舟伝説は、生まれぬままに眠りに付いた
誰も知りえぬその物語は 哀しい旋律と共に紡がれる
吟遊詩人の魂を受け継いだ者だけが 風に乗ったその歌を聴く
今もまだ…紡がれ続けている哀しい魔法の歌を……

『約束の時に再び…この街で……』

運命の時が再び巡り来る 約束の日が近づく
それは誰からも忘れ去られたはずの約束…嗚呼…歯車が廻る…
千年と一夜に渡る永い歌を とうとう 三人の歌い手は唄い止み
理を崩した証と共に やがて この街に……?

『もう一度……あの歌を…―――――』

………嗚呼…時が巡る………
……千年と一夜を経た 約束の日へと……


蒼色の中に浮かぶ空中庭園は…何も知らぬまま輝き続けている 
吟遊詩人は囁いた 物語として紡がれなかった真実を
只 一人だけ 人柱と成り得なかった者がいると
彼女は短い生涯の間 片時も離れず水晶に寄り添い やがて命を吹き消した
そして唯一…只一人だけ……この街に帰って来ているのだと…
             我らが女王陛下
「……左様ですね、フィーリア様?」

絶望に染まった蒼の物語を信じる事が私に残された最後の希望でした……



輪廻の再来の証明 そして只一人の例外 誰も知らない真実を叶えた者
かつて姉さんと呼ばれた少女は 例外の流転を繰り返す
魂に記憶を留め続けたまま…永きに渡る孤独と共に……
千年と一夜…
かつての約束を叶える為に……

時の歯車が廻る 神への歌が終わりを告げる 最愛の魂と共に残酷な運命が還って来る
微笑みを湛えた女王は静かに立ち上がり――

雲の峰を越えた先に住むという私たちの神様
峰を越えたその先へ旅に出ようと誓った幼き思い出
それは叶えられたのでしょう ですが 旅は帰り着くまでを旅と呼ぶのなら

峰は邂逅を 再びの巡り逢いを導いてくれるのでしょうか
蒼神様 貴方の涙は無事に止まられたのでしょうか
この世界は――再び貴方に愛して貰えるのでしょうか……

「時が巡り…運命もまた還ってきます…」
「もう誰も泣かせは致しません…かつての友の言葉は私の導…」
「全ての涙を…哀しい運命を… 今度は…私が止める番…」


……今 いざ 時は 満ち足り……


…………。
…白い風が吹き過ぎ 夢を見ていた貴方は目を覚ます

蒼を背景にした吟遊詩人が微笑んだ
僕の知る物語は ここまでしか綴られていない
この先の物語は―――――



…Fin ?



2007年度 文藝部誌「eMPIRE!?」 文化祭特別号掲載
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