舞い散る雪の願い唄



この世界のどこかの誰かの ありふれた思いを歌ったような
ほんのり苦く 優しく甘い思いの結晶
         
バレンタインデー
一年に一度の 特別な日
ありふれている思いだけれど 飛び交う思いの数は数知れず
それぞれ一つずつ 甘さも苦さも違うのでしょう

この世界のどこかの誰かは 一生懸命思いを込めて
甘い甘いチョコレートに ありったけの想いを込めて
ほわほわに溶かしてくぅるり回して 味見さえもまるで口付けるように
一年に一度の 神様が用意してくれたのかも知れない 思いを伝える大切な日
この世界のどこかで 一体何人の誰かさんが
キッチンに立って 慣れない魔法に悪戦苦闘しているのでしょう

ホワイト・クリーム優しく混ぜて とろけるチョコを贈ろうか?
ほろ苦い粉を雪のようにまぶして 大人のチョコを贈ろうか?
卵とミルクとお砂糖と暖かな火で焼き上げて チョコレートケーキを贈ろうか?
                         
チョコレート
ほんのり苦く 少し不恰好な 優しく甘い思いの結晶
胸元に抱きしめて 恋する乙女は駆けていく
愛しい愛しい 大好きな彼の元へ

ふわふわ雪が舞い降りても 彼女には 寒さなんて届きやしない
思いの結晶抱きしめて 胸をどきどき高鳴らせて
「こんなに体が熱いんじゃ チョコが溶けちゃいやしないかしら?」
そんな心配まで膨らませながら 駆けていきましょう彼の元まで

恋を叶えるキューピッド さてさて今日は大忙し
一年に一度の今日 この世界で一体何人が 思いを伝えようとしているのでしょう
通りすがりの天使さんに尋ねてみたら、たった一言返って来たのは

「あの子の所から見える星より ずっとずっと多いくらいさ」


「勇気を出しなさいお嬢さん 彼のハートを射抜いてあげよう
    
チョコレート
 君の  結晶  で 彼に思いを伝えてあげよう

 恋のキューピッドに出来ることは 実は結構少なくて
 君に勇気をあげることしか出来ないのだよ
 彼のハートを射抜けるのは 君の真っ直ぐな思いだけなのだから
 胸元のチョコレート抱きしめて さあ、顔を上げてごらん」


冬の雪の音に混じって
近づいてくるのは愛しい彼の足音

見守るは恋の天使と 舞い落ちる私達だけ
冬の冷たい空気なんて そこだけきっぱり置き去りにして
まるで春が訪れたかのように 寒さなんて忘れてしまったかのように
思いの結晶握り締めて 顔を真っ赤に染めて
緊張の余り目を閉じて 凍りついた喉を必死で開いて
そして少女は 勇気を振り絞って顔を上げる――

目線の先には 愛しい少年
突き出すように差し出された 思いの結晶 真っ直ぐに見つめて…


幸福の女神が少女に微笑むことを ひっそりこっそり祈りましょう
この世界に飛び交うたくさんの思いが
一つでも多く幸せになれるように ここからこっそり祈っています

一年に一度の特別な日
舞い落ちる雪が歌った 恋する少女への祈り歌
                    

一片でも多くの暖かな幸せが 私達のように 優しく舞い降りますように
願うことしか出来ないけれど ささやかなお祈りを

この世界の全ての恋する乙女に
幸せが訪れることを願って
             
 りっか
今ここで歌いましょう 六花の幸せの祈り唄を


「……好きです!」

Fin






2007年 文藝部誌「游」 バレンタインデースペシャル号掲載

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